第19章 記憶
私のまぶたは鉛のように重かった。
「…ん…」
ぼんやり薄く目を開けると、いちばん初めに飛び込んできたのは、あたたかな毛布だった。
寒い。スースーする。
私…裸だ。
私はどこかの場所で、両膝を曲げて座っている。背中に壁があたる。天井を見上げた。そこには何百回も見たことがある阿吽の門があった。
「……あたッ」
頭がズキズキと脈打つ。
痛い。
「さ、寒い……」
そして凍える。
裸だ。毛布とコートをかけられているけど寒い。
冷たい風が頬に当たった。
「花奏さん、身体は大丈夫か?」
声の方に顔を向けた。イタチは屈んで私の隣にいる。頬にそっと細長い指が触れた。
「う、うん大丈夫だよ。凄い格好だね私…。あ、私も、イタチも怪我をしてるね」
おでこを触ると絆創膏が貼ってある。頬や顎にも。いったいどうしたら、こんなところを怪我するんだ。笑いそうになった。
階段や道で転げ落ちたりしたのだろうか。
なぜ?
小さくなった私は、
なぜ
転ぶほど慌てたのだろう。
逃げていた、もしくは
だれかを探していたのだろうか。
なぜ?
自分の頬には涙の痕が残っていた。
「ごめんね私、いま記憶が曖昧でさ、……変だね?なんだか記憶喪失みたい」
3代目から渡された試薬を飲んで小さくなった。そこから、記憶がごっそりと抜け落ちているのだ。
身体の傷は、きっと自分で転んだのだろう。手のひらにも転けた痕がある。すり傷は身体中にあった。
小さくなった私は
よっぽど慌てたらしい。
「時間がたてば思い出すかもね」
「……記憶は戻らない方がいい。ご無事で、なによりです」
なんてイタチは淡々と言う。
「ねえイタチ、あなた大丈夫?痛くないの?」
血が無数にイタチの任服に飛んでる。
返り血だろう。それでも数が多すぎる。
イタチの頬や足や腕に、鋭利な刃物で斬られた傷や、無数の火傷の痕があった。
任務直後?イタチが怪我をするのは珍しい。仕事は、ほぼ無傷で終えることが多いのだから。
「イタチごめんね。私のことは気にしないで病院に行っておいでよ。私はなんとかして帰るから」
裸だけれど仕方ない。毛布とコートがあれば…。
瞬身の術でカカシの家に戻るしかない。まず彼は家にいるのだろうか。
今日は何日目?何曜日?それすら、私はわからない。