第18章 うちは一族として
普段いつも使う家が怪奇に見えた。
石だたみを歩き、小さな砂利が鳴る。家の中は異常なほどに静かであった。
暗闇の扉を開けて、靴のまま上がる。
薄暗い廊下を歩いた。まっすぐに進むと、薄明かりが客室で輝き、2人の影が見えた。
「イタチか」
フガクの声で扉を開けた。血塗れの手は洗ったが、衣服に飛んだ数点の血は落としていない。暗部の任服に身を固めたイタチは木ノ葉の額当てをつけている。
「父さん、すまない。オレは…」
「謝るんじゃない。お前がスパイかも知れぬと、薄々気づいていたのに、止めなかったオレが悪いのだ」
どこか寂しそうな背中はやけに小さく見えた。いつも威厳溢れる父上ではなかった。
フガクとミコトは中央で正座したまま、イタチの方に目を向けなかった。
「イタチ、分かっていたわ」ミコトが言う。
答えは、初めから分かっていた。
イタチは父親の背中に立つ。
手には長刀を持つ。百人以上もの命を奪った。同志の命を……。
「父さん……、」
「3代目を頼りなさい、イタチ」
その言葉にイタチは目を見開く。
「あのお方は……、お前が頼れば、必ず助けてくれるはずだ。オレは意地を張ってしまった。幾度も猿飛ヒルゼンから打診を受けたが、最後の最後まで……頼ろうとしなかった」
目を伏せたフガクは涙を浮かべ、
頬に伝う。
「イタチ、お前は必ず、火影3代目を頼りにしなさい。ヒルゼンは優しい男だ。お前を決して無下にしない」
「父さん……」
「イタチ、わたし達は早い段階から、花奏が、忍だと知っていた。暗部だということもな」
「っ!」言葉が詰まる。
「猿飛ヒルゼンが打診に来た際、頭を下げたのだ。他里から来た女で、身寄りもない女の子だと話していた。小さくなってしまったとな。まさかお前が、あんなにも他人に優しく接するとは思わなかったがな……」
フガクは、深くため息を吐いた。
「サスケもお前が育てたようだったな……よく、母さんを助けてくれたお前を思い出すよ」
微笑んだように、穏やかな表情を浮かべた。
そして、最期の言葉を発した。「オレの遺言だ」と付け加えた。
「ひとと違う道を歩いても、お前が正しいと思う道を行きなさい。それが、お前の答えになるはずだ。オレはお前を誇りに思っている。忘れるな」