第17章 答え
「イタチ、話がある。少し下に来なさい」
ノックの音と共に、フガクの低い声が聞こえた。イタチはドアの方に顔を向けた。
「……はい。サスケ、少し見ておいてくれ」
イタチは花奏の頭を優しく撫でて、重い腰を上げた。なにを言われるのか、だいたい分かる。瞳は暗い影を落とした。
「ああ……うん……」
パタン……と、静かにドアが閉まり、階段を下る音が離れていく。
サスケは、兄と父が話をすることが好きではなかった。最近は言い争いばかりだからだ。
「ダ……、ぁうーーー、あぅーー」
赤子がいつの間にか移動している。見ればサスケのカバンを触る。中にはアカデミーで使う教科書やら筆箱、ノートや大事なテストの答案用紙が入っていた。
「おい、やめろよ」
ぶんっと取り上げて、自室の部屋に運んだ。兄が家にいて、嬉しくて飛んで帰ってきたせいで、鞄を直すのを忘れていた。
「花奏…ちゃん、大人しくこれで遊んどけ」
戻ってきたサスケは、寝転んだ体勢になり、赤子の顔に近づいて網のボールを渡した。
「……」
ポイっと興味を示さず、後ろに投げた花奏は、サスケの顔をペチペチと叩いた。なんか楽しそうだ。
「あ、なにすんだよ、てかお前ベッタベタ!」
小さな赤子の手のヒラは、ねっとりと湿る。指しゃぶりの影響か、親指は特に濡れていた。
「うーー……」手をガーゼで拭いてあげたサスケは、同じ高さの視線で寝転んで喋った。
「サ、ス、ケ。ほら言ってみろよ」
口を開けたり閉じたり、サスケの口をマネをする花奏。だが、言えるわけがない。
「……あぅーー」と顔をそらして手を床に置いて、移動し始める。
オットセイみたいなハイハイで、サスケの横を通り過ぎ、小さな足が手に当たった。
「おい、お前どこ行くんだよ」
ドアの方に行く姿は後追いだった。
「なんだよ、花奏、兄さんが好きなのか?」
背中から脇を抱えて、方向転換させたサスケ。
「オレもだ」
にぃっと口を横に広げた。