第3章 独占(龍如/秋山視点)
ー
いつもと全く違う大人びた雰囲気に、秋山は思わず惑わされそうになる。
ふいに伏せられた目、うざったらしい横髪を耳にかける仕草、先程までとは違う緩やかな笑み。
....嗚呼、やはり愛おしい。
知らず知らずに奪われていた心を留めておくことが出来ず、考えるよりも先に彼女のかけた髪をなぞるように手を伸ばしていた。
不思議そうな顔をして此方を見つめる彼女の表情に心が揺らぐ。あまり手を施していない黒髪は、此処に来てから触れたことがないくらいに綺麗なものだった。
自らとった行動にハッとして、速やかに手を引けば彼女はまた嬉しそうに笑う。
「...髪の毛、私のチャームポイントなんですよ」
そう言って彼の手が名残惜しいかのように、再度かけた髪を指でなぞる。
ざわざわと、胸騒ぎばかり。
彼女に想いを寄せてはいけない。そんなことはとっくに分かりきっていたはずなのに、とめどない感情が流れ出す。
俺はの事を愛しているのだ。
秋山の中で終着したわからないままの感情は、愛だった。好きだのそんな生緩いものじゃあなくて、愛しているよりも先にあるもの。
その感情がわかってからは、もう早かった。
「ちゃん、俺でよければ話してくれない?重たいもの全部」
自分がカタギだとか、彼女が此方側を知らないとか、もう関係なかった。ただ、彼女を誰よりも先に手に入れる事が何よりも大切なことだ。
目を丸くさせる彼女の髪を撫で、視線は逸らさない。イエス以外の返事は勿論求めない。いや、確実に言わせない。
既に秋山は彼女の手を取って此方側へと引きずりこませる手前にいた。
欲深いのは本当に悪いことなのだろうか。
ただ彼女を自分が欲しているだけで、ほかに何もないのだから、純粋な愛とも言えるはず。
他人になんて、決して邪魔できないさ。
きっと。
ー
(終わり)
秋山さんはなんやかんや、独占欲は強そうですよね。独自論ですが。