第5章 見てほしい/見ています(鬼灯/夢主視点+鬼灯視点)
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「....なんで、見てくれないの」
好きな人に限って見てくれないのだ。
一瞬でも目が合えばそれだけでいいのに。
ぐらんぐらんと、視界が歪んでいく。
100点は取れなかったけど、近い点数は何回も取っているのに、得意科目とだけ思って褒めてすらくれない。
だから、今はもっと頑張ってるよ。
毎朝ちゃんと起きて、誰よりも先に行って業務の用意をして、愛想笑いだって無理やり慣れさせて、そうして人からの頼まれごとを笑顔でいいよ、なんて言ってあげるのに。
この仕事の中で一番優秀だとは言わないけど、3番目くらいの順位で優秀だとは思う。
なのに、みんなはビリの人がトップの人しか見ないじゃない。
鬼灯様だって、トップの人としか喋らないじゃない。
運動会の時も、結局は成績トップか馬鹿な美人の言う事しか聞かない。私なんかが借り物競走で貴方の手を引いたところで、嫌な顔をされるに違いないのに。
「....疲れた」
地獄に来てから、いいことなし。
前世が一番、幸せだったのかも。
一人で、友達もろくにいなくて、社交性あるふりして結局はないのに無理して頑張って。
いったい誰のために頑張っているのだろう。
ぐらんぐらん、
頭が働かない
「....、ぁ、」
何かにつまづいたような感覚に陥って、前倒れに地面とご対面。持っていた巻物は見事に床に散らばった。
身体のどこかは痛いけど、どこかはわからない。
そのくらい、意識がぼやっとしていた。
突然眠くなって来て、瞼が重くなる。
最後に聞こえたのは、誰かの足音だった。
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