第3章 起首【淀み】
漆黒に染った邪気を全身に流し込み、涙を流し続ける大和守様の姿を前にして、私は咄嗟に大和守様の口を塞ぎいだ。
昔祖母に教わった 最終手段 というやつだ。
祓っても無駄で、どうしようもなく暴走してしまった場合、自分が口から吸い取り浄化させるという方法だった。
まさか自分がする場面が来るとは思わなかった...
それも...男性相手に...
だが今は一刻を争うのだ、そのようなことは言っていられない。巫女の名折れだ。
邪気を吸い取り、変わりに自分の神気を流し込む。
一心不乱に続ければ、気づけば室内は清浄な気で満ちてきていた。
どれくらい続けていたのだろうか...そして、少し邪気を身体に取り込みすぎたようだ...治まっていた肩の傷が再び疼き出す。
肝心な大和守様は、気を失い、私に凭れ掛る形で静かに肩を上下させていた。
どうやら一命は取り留めた...と言ったら少し大袈裟かもしれないが、何とかなったようだ。
邪気を吸い取ったとはいえ、人への憎しみは消えるはずはない、またいつああなってしまうかも分からない。
かと言ってここから去ろうにも、恐らく他の刀剣男士様達も人を恨んでいるに違いない。
きっとこの本丸全体を包み込んでいるこの不浄の気たちは、そんな刀剣男士様達の人に対する憎悪の塊なのだろう...。
兎に角今後私はどうすべきか、考えなくてはならないようだ。
寝息をたてる大和守様を横に寝かせ、
頂いた資料を見ようと、虚空を叩けばウィンドウが開く。
慣れない手つきで操作してこの本丸について記載されている資料はないか探してみるが、ヒットするものはなかった。