第3章 起首【淀み】
その靄は瞬く間に濃くなり、その方の全身を包み込んでいく。
このままではこの方は危険だ
そう私の中の何かが告げれば、自分の頭上に刃物が掲げられているなんてことも忘れてその人に飛び付いた。
ズブッ
鈍い音が室内に響く。その音の正体が掲げられた刃が自分の肩に深く突き刺さったことだと気づく前に、強烈な痛みが襲いかかり、目の前がフラッシュをたいたように白く点滅する。
傷を抉るように靄も私の中に入り込もうとし、より痛みが増して何も考えられなくなる。
先程の切り傷の痛みなど可愛いものだ、瞬く間に全身の力が抜けてゆく。
薄れ行く意識の中で、目の前のその人は笑みを浮べるが、瞳からは...........一筋の雫が頬に向かって流れていた。
『あぁ、どうか泣かないで』
力を振り絞り刃物の刺さっていない方の腕を動かしその方の頬に触れ、涙を拭った。
驚きの表情に変わっていくその顔を見ながら、私の意識は途絶えていった。