第1章 帰
やっと会えた
そんな喜びから
彼女を強く抱きしめた
彼女の様子がおかしい
それに気がついていた
だが
手の届く範囲にいる彼女を
すぐに離して上げたくはなかった
また何処かに行ってしまう
そう思うと…。
スマホで打たれる文字とのやりとり
彼女は声が出ないということは
すぐにわかった
離れていた3年間
何があったのか
気になるけど聞かない
身体に触れられるのが
怖いみたいで
そこから嫌な予感はしていた
彼女の家までの道
他愛のない話をして
それに笑ってくれる顔が
近くにある
今はまだそれでいい
シャワーから上がった彼女の姿を見て
見惚れてしまった
身体が温まったのであろう
少し赤く色づいた頬
しっとり濡れた髪から
水滴が落ちる
そんな彼女を抱きしめてしまいそうな感覚になり
必死に自分を抑えた
風邪を引いてしまう
乾かしてあげる
そんなありきたりなセリフを吐けば
僕がしつこい性格だと理解してる彼女は
近づいてきてくれた
最初ビクビクしていた彼女は
だんだん顔色が悪くなっく
自分がいる彼女に触れると
怯えさせてしまってる
怖がらせてしまってると思うと
胸の奥がジクっと何かが刺さる気がした
「大丈夫?」
無理に触れようとすれば
傷つける
そう思い声をかけた
彼女は僕の
手をとり何かを確認していた
ツーッとなぞったり
フニフニとおしたり
その行動は子猫みたいだった
しばらくすると
自分の気持ちに整理がついたのか
僕を見上げて言った
「大丈夫だよ。貴澄くん」
音にはなっていなかった
でも、確かに僕には聞こえた
3年ぶりのちゃんの声が
僕に背を向けたので
ドライヤーの続きをしていると
コクコクしてきていた
(さっきまで怖がっていたのに…。
警戒してないのはいいけど、少し気を抜きすぎかな)
髪の毛の束をすくい
唇を落とす
シャンプーの香りが鼻をくすぐり
目を開けると
うなじが見えた
(もうちょっとだけ…独り占めさせて)
チュ
うなじにキスをして
彼女が起きていないことを確認すると
ドライヤーを続けた
-------貴澄 side end