第1章 帰
ヴォー
ドライヤーの温い風があたり
貴澄くんの指が髪の毛を撫でていく
優しい手つき
私が知っている男の手つきじゃない
ドク……ドクドク
「ちゃん、大丈夫?」
ドライヤーが止められ
貴澄くんから声がかかり
ハッとした
「熱くなかった?」
振り返ると
貴澄くんの瞳が
心配そうに揺れていた
(貴澄くんはわかってる。今の大丈夫?はドライヤーなんかじゃない。わかってて誤魔化してくれてるんだ)
貴澄くんの手をとった
抱きしめてくれた手のひら…
唇に触れた人差し指…
髪を優しくすいてくれる指…
手のひらを、指の一つ一つを触って確認する
貴澄くんはその間
手の力を抜き
好きにさせてくれた
大きくゴツゴツした手
バスケを続けてる手
(大丈夫。この手は私を傷つける手じゃない
優しいく包み込んでくれる手だ)
ふぅーと息を吐き
目を合わせる
目を合わせたまま
口を動かした
貴澄くんは目を見開き
重ねてた手を握り
嬉しそうに笑ってくれた
(伝わったかな)
前をむきなおすと
ドライヤーの続きをしてくれた
クッと髪を引っ張られた気がしたが
貴澄くんの優しい手つきと
ドライヤーの温かい熱で
ウトウトしていて気にならなかった