第1章 帰
どのくらい見つめ合ってたのかは
わからないけど
貴澄くんが慌て始めた
「ご、ごめん! いきなり抱きついて!
さっきスイミングスクールの前で
似た人がいると思ってつけて着ちゃった。
そしたら急に海に飛び込むんだもん。
まだ四月だっていうのに…
あ…ほら、唇も真っ青」
そう言うと貴澄くんの人差し指が
唇に触れた
肩が震え始める
また怖くなりギュッと目を瞑れば
貴澄くんが離れるのがわかった
「身体が冷え始めてる。風邪ひいちゃうよ」
手を引き立たせてもらうと
肩にフワッとジャージがかかった
貴澄くんは人のことをよく見てる
その人が嫌なこと、それをすぐに察することができ
うまくフォローしてくれる
(本当にすごいな…貴澄くん)
ジャージをかけるときに
さりげなく離された手にはまだ
優しいぬくもりが残ってる気がした