第1章 帰
(身体が気持ち悪い)
虫が身体を這うような
そんな気持ち悪さから逃げようと
走っていたらいつのまにか海に出ていた
何も考えたくなくて
この気持ち悪さをすぐに洗い流したくて
持ってた荷物を浜辺に投げ捨て
服を着たまま咄嗟に海に入った
(やだ!!いや!!……気持ち悪い…。…… だれか…)
海の中で身体を洗い流すように潜る
静かで冷たい水の中
ポコポコという水の音
その音を聞きいていると
だんだん心が落ち着いていく
目を開けて上を見ると
日の光が差しているのが見える
その光を掴みたくて手を伸ばし握るけど
掴むのは当たり前だが水だけで
光なんて掴めやしない
それが無性に悲しい
バサッ
海の上に顔を出し空を見上げ息を吐く
先程までの気持ち悪さはもうない
ボーっと地平線を見ていると
ザバザバという音が聞こえ
そちらに顔を向けた
「ちゃん!!やっぱり!ちゃんだ!」
聞き覚えのある声で
自分の名前を呼ぶ人がいる
びっくりしてその人を見ると
膝上まで海にはいって
こちらに向かって手を振っていた
潜らながら泳ぎその人のところまで行き
水面から顔を出すといきなり
目の前が真っ暗になった
抱きしめられたのだ
怖くなり引き離そうと暴れるが
離さないとでも言うようにギュッと
力を込められた
喉の奥がヒュッと音を立てて
身体が震え始めた
「ちゃん……」
耳元で優しく名前を呼ばれれば
一瞬にして怖さが薄れ抵抗をやめた
「やっと会えた。ちゃん」
少し鼻声になったその声は
やっぱり聞き覚えがあった
たしかめたくて
ポンポンと肩を叩くと
腕の力を緩めてくれた
下から覗き込めば
目元に涙をためた彼の顔を
ようやく見ることができた
(貴澄くん…)