出水と太刀川さんと風間さんに挟まれる話。【ワートリ】
第4章 第4話
「あ、ここです」
と言うと、日向は左手のこじんまりとしたアパートを指差した。
「…ここが名無しちゃんの家?」
太刀川さんがやっと口を開いた。
「はい、ここの2階の一番右から2番目の部屋です」
「んじゃあ、部屋まで送るよ…」
……おいおい待て待て待て。
「え、ここで大丈夫ですよ」
「…いーから」
太刀川さん、若干強引に日向の背中を押して歩き出した。
まずい、太刀川さん何しでかすかわかんない。
「太刀川さん!ここまでで平気ですって!」
「なら出水はここで待ってろ」
ハ!?なんで俺だけここ!?!?
「〜〜っ、なんですかそれ!」
俺はそう言いながら階段を上がる2人を追いかけた。
太刀川さんは日向の後ろから隣へ移動しており、手を握っていた。
おいおいおい…!!
「た、太刀川さん…」
焦り気味の日向。
彼女は男慣れしてなさすぎる。
この状況から脱するには、彼女一人では無理だ。
「…ほら、鍵出して」
「え、あ…はい」
カバンをゴソゴソの漁り始め、見つけた鍵を鍵穴に差し込んだ日向の隙をついて、太刀川さんがドンッ!とドアに日向の体をこちらに回して押し付けた。
「…っ!」
「…っ、ごめん、名無しちゃん…俺…」
日向と太刀川さんの距離が限りなく0に近づいた時、俺は咄嗟にドアノブを左手でひねっていた。
ドアノブに腰が当たっていた日向は俺がひねったことにより体勢を崩し、俺は力を入れすぎたせいでつんのめり、その場に倒れこんだ。
痛みでしばらく動けなかったが、やがて何かが下にあることに気づいた。
そして、口元に暖かくて柔らかいものが当たっていることにも。
まさかと思って目を開けると、そこにはさっきまで見ていたパッチリ二重の瞳が視界いっぱいに映り込んでいて。
「………お前さぁ」
太刀川さんのあきれたような一言があるまで、俺は衝撃で動けなかった。