第1章 うそみたいなできごと。
仕方なしにさっきまで燐が寝ていたベッドに上がる。
「じゃあ、おやすみなさい」
そのまま俺とは違って床に座った状態で、ベッドに両腕を組みかおをうつ伏せた。すぐに寝息が聞こえてくる。
「…早」
たださすがにこの状況を許せる俺じゃないぞ、と。イリーナならまだしも、知り合って間もない少女のベッドを占領し、持ち主の少女を床で寝かせるなんて出来るか。
ベッドを下りて、燐を抱える。
「よっ、と」
よっぽど疲れてたのか、それとも1度寝たらそう簡単に起きない質なのか、起こさずにベッドに横たわらせることが出来た。
「……」
気は引けるが、『お客様にベッドを譲る』という強情さを見せられたので、そのまま自分も燐の横に寝転がる。
「狭ぇ」
自分の腕に頭を乗せ、まくら代わりにする。
寝転がっても知らない奴がいる中ではなかなか眠れない。
何があってもすぐに起きれるように浅い眠りしかできないことの方が遥かに多い生活をしてきたからだろう。慣れてしまっているから苦でもない。
向き合って、燐の顔を観察する。
………やっぱり幼いな…?
いくつだ?体つきを見るには成人してそうだが…。
かといって、幼い顔と成人してそうな体が釣り合ってないという訳でもない。
ぷに、と頬をつついてみた。
「おお……」
その柔らかさに思わず声が漏れた。
「…ん…?」
ぷにぷにし続けていると、微かに燐が反応した。
お、やべ、起きるか?
ぷにぷにをやめて、息を潜めると、燐はまたすぐに寝息を立て始めた。
……おーおー。俺のことを直接ではないとはいえ、知っていると言っても会うのは初めてだろうに。なんつー無防備さ。
見た目で判断するのもどうかと思うが、今はまだ見た目しか判断する材料がない。そしてその見た目からして夜のねえーちゃんでもなさそうなのになんでこんなにも普通に気持ちよさそうに寝てるんだ、この少女は。
レノの考察も知るはずもなく、燐はバイトの疲れにより、いつも通りに気持ちよく寝ていた───────