第1章 うそみたいなできごと。
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目覚ましが鳴った瞬間に起きる。
体に寝る時間と起きる時間が大体組み込まれたのか、いつも起きるくらいの時間には頭が起きるモードになっているらしく、寝坊することはほぼほぼない。
「んん……」
ただ、起きる時間がいつもほぼ変わらないといえど、眠くないわけじゃない。
年がら年中眠いんだもの。眠いよ…………
と、うつらうつらしていると「ふっ、」という、軽く笑われた気がした。
え、と思って、聞こえた方向を向くと、そこには目が覚めるような赤があった。
「っど、わ!」
ゴンッ!
痛!
その赤にびっくりして避けるように飛び起きると壁に頭をぶつけた。……お隣さん、ごめんなさい…
「ふはっ、大丈夫か?」
その赤はレノさんだった。夢じゃなかった……それともまだ疲れが取れずに夢を見てるのかと思ったけど先程の痛みがある。夢じゃない。
「…お、おはようございます…」
「おお、はよ」
驚きと頭の痛みで脳はすぐに覚醒してきて、レノさんのシャツのシワに気づいた。
「あっ、ごめんなさい!」
「ん?」
「シャツ、シワになっちゃいましたね……」
「あー、いや、これは大体いつもだぞ、と」
レノさんは自分のシャツをパッパッとはたいた。
うーん……レノさんでも着れる服あったかなぁ……
「あ、ちょっと待っててくださいね」
「?」
よたよたとレノさんの横を通り抜けて、服を詰め込んでいるタンスに向かう。
引き出しを開け、お目当てのものを引っ張り出す。
「これ、レノさん着れるか試して貰えます?」
引っ張り出したものをレノさんに手渡すと、レノさんはその場で大胆にシャツを脱いだ。
「?!」
まさかその場ですぐに脱ぐとは思ってなかった…!
ほぼ反射で目を瞑り、そのまた上から自分の両手を顔に押し付ける。
「おお、これサイズいい感じだぞ、と」
その声にそ~っと両手をどけてみる。
確かに渡した服のサイズは丁度よさそう。よかった……。
「ズボンはそれくらいしか大きいのないんですけど上のシャツなら大きめがいくらかあるから……下を買わなきゃですね」
今日は土曜日。夕方からまた居酒屋のバイトがあるけどそれまでに買いに行けばいい。
「けどいいのか?俺がこれ着ちまって。誰かのじゃねーのか、と?」