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親友を取った男の部下に堕とされました

第5章 拉致


土曜日の夕方。
細かい時間は聞かされてなかったから、昼の2時頃からずっと俺は玄関先に立っていた。体がガチガチに緊張している。途中で庭の花やりをしに出てきた弥作に「顔怖くなってるよ?」と指摘された。時間が4時を過ぎた頃、名前も知らない高そうな車と軽自動車が俺の家の前で停まった。軽自動車から月島が、高級車から鶴見が出てきた。
「こんにちは、高橋くん」
「こんにちは…」
朗らかな笑顔の鶴見がズイズイと近づいてきて俺の鼻に服がくっつきそうな程目の前で立ち止まる。近すぎるだろ。
「近すぎです鶴見課長」
「そうか?すまんすまん」
鶴見の後ろから月島が指摘してくれて、鶴見は大人しく数歩下がった。
「それで、私に話とはなんだ?」
「玄関で立ち話もなんですし、まずは入って下さい」
緊張で震えそうになる手を叱って、できるだけ自然に扉を開ける。
「ではお邪魔しようかな」
「お邪魔します」
鶴見と月島が揃って家に入る。俺も入って扉を閉めた。
長話をする気はない。全員がダイニングに立った状態で俺はぐっと拳を握った。
「…芥子の花からは阿片やモルヒネが作れるそうですね」
俺がそう言うと、鶴見の眉がぴくりと動いた。アタリだ。
「別に、芥子栽培でもなんでも、アンタらが何を企んでようと俺には関係ないんです。でもそれに弥作を巻き込もうって言うなら黙ってられない」
握った手のひらに爪が食い込んで痛い。でもそれぐらい気合いを入れてないと、膝がばかみたいに笑ってしまいそうだった。思えば大人相手に一人っきりで何か意見するってのはもしかしたら、初めてかもしれない。そりゃこんだけ怖くて当然だ。でも。でも。
弥作の笑顔を思い出す。あいつを守る。守りたい。
「ただの俺の勘違いで、違法な事なんかしてないって言うなら謝ります。代わりに弥作に何をさせるつもりなのか教えて下さい。教えられないって言うなら、弥作をアンタに預けることなんて出来ない」
「江渡貝くんは彼の意思で私に協力したいと言ってくれたが。高橋くんは、彼の保護者か何かか?」
「違います。でも、唯一の親友だ。どれだけ弥作が望んでようが、危険なことはしてほしくない。俺は俺のエゴであいつをこうやって守ってきたんです」
俺の言葉に鶴見と月島は顔を見合わせて、やがて鶴見がふー、とため息をついた。
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