第8章 餓え
マルクを慰めようと思ったその時だった。
ガイタスはあの部屋に足を踏み入れた時に疑問に思ったことを思い出した。
ガイタス:「マルク。少し聞きたいことがある。」
マルク:「……なんだ。」
キサラの方から視線を外さずに、少し間が空いてから返事が返ってきた。
ガイタス:「何故、キサラは視界を遮ることができたと思う?
彼女は調合の天才だとは思うが、あんな短時間で視界を遮ることの出来る薬は作れるものなのか、俺には見当もつかない。それに、ウィーダの腕に刺さっていたナイフに塗られていた薬は、不死の華と同じ匂いがした。」
マルク:「何が言いたい?」
キサラの方から視線をやっと外したマルクの顔は、明らかに敵意を向けていた。
そして、ガイタスを睨みながら次の言葉を目線だけで促した。
ガイタス:「元々、俺たちに使うために用意していた特殊な薬だったんじゃないのか。それに、不死の華は俺たちにとっては猛毒だということも知っている。
彼女も特殊な種別と言えばそうだが、所詮は無力な人間だ。その薬を使って俺たちから逃げ出そうとしても、おかしくはないだろう。」
マルク:「ガイタス…。お前だけは、いつも僕のことを理解してくれていた。街へ出るときだって、僕以上に体に負担が掛かるくせに何も言わずに必ずついてきてくれていたな。」
普段と違う雰囲気を感じ取ったガイタスは、マルクから少し距離を取り、様子を窺いながら話を聞くことにした。
マルク:「お前が言いたいことも良く分かる。人間は弱くて,脆い。だから力あるものを排除しようとする。ヴァンパイアハンターがその代表だからな。
だけど。」
ガイタス:「っ!?」
突然マルクがガイタスの喉元へ氷の刃を突き出し、身動きを取れないように威嚇をした。
マルク:「命がけで、僕の仲間を守ってくれたキサラをそんな目で見るのは、絶対に許さない。」
有無を言わさぬ眼力は、ガイタスの視線を捉えたまま逃がさなかった。