第3章 焦り
視線の先には、ビスクドールのように白く透き通った肌を持ち、その肌に浸透するかのような美しい白銀の髪を、窓から吹いてきた風がさらさらと彼のほほを撫でていた。呆れて閉じた瞼が開かれると、まるで宝石のような輝きを持つエメラルドグリーンの瞳と皆の視線が絡まりあった。
ロイゼン:「アージェス……。」
アージェス:「久しぶりだね。ロイゼン。君はあんなに大切だって言っていたキサラを守れなかったって噂を聞いたけど?」
久々に言葉を交わしたという二人の視線の間には、火花が散るかの如く、言葉の刺々しさが伝わった。
しかしその、空気を破るかのようにアージェスがまた口を開く。
アージェス:「ねぇ、ロイゼン。君に僕が入手した情報を提供するよ。今日はその為に来た。」
真剣な表情で、真っ直ぐにロイゼンを見た。
ロイゼンは何故だと聞こうとしたが、やめた。
理由は分かっているし、何よりも早く情報を入手して彼女を、キサラを助けたい。その想いがずっと胸にあった。
ロイゼン:「……。有力な情報なのか?」
そう聞くとアージェスは静かに頷いた。
ロイゼンが『聞かせて。』と言うと、アージェスはこう言った。
アージェス:「此処の街の住人を攫ったのは二つの種族のヴァンパイアだ。しかも、片方の種族はヴァンパイアの中でも最も最強だと言われる純血のヴァンパイア【マルク・ブランシェ】が率いる種族だ。」
ギルド長以外の情報を聞いた者たちはみな、絶句していた。
純血のヴァンパイアは混血種なんてものじゃないくらいに強い。銀の剣や、銀の弾で立ち向かうなんてことは無謀すぎる。
ギルド長:「そうか。マルクがこの街に来たのか。」
独り言のように呟いた彼の表情は今までに見たことがない表情だった。
ロイゼン:「ち、父上……?」
ロイゼンに呼ばれたギルド長は、ハンター達に向かって告げた。
ギルド長:「この戦いは、奇跡が起きない限り無謀であろう。しかし、皆の者。此処で誓うのだ。必ず、生きて帰ることを。」
ハンター一同:「はっ!!!」
ロイゼンは感じた。
長が告げた言葉には、威厳はあったが、それ以上に焦る気持ちが強く滲み出ていたことを。
アージェス:(キサラ……。必ず、君を……!)
焦り end