第26章 軍艦×デ×脱出
『不安じゃないの?』
「なにがだい?」
海の方を見ると、ちょうど受験生達が小型船を準備しているのが見えた。
『これが試験で制限時間があったら、ここでのんびりしてたら不合格になる可能性が高くない?』
「それはないね」
ヒソカも私と同じ様に受験生達を見る。
『なんで言い切れるの?』
なんで自信満々で違うと言い切れるのだろう。
「意図が見え見えの囮(フェイク)がハンター試験のはずがないのさ♦」
『なるほどね~』
言っている意味が分からない。 けど、それを詳しく聞こうものなら馬鹿にされるだろうから誤魔化そう。
「キミ、分かってないでしょ……用意された手掛かりは、明らかにボク達をゼビル島へ向かわせようとしてる。 でもハンターは相手の考えの裏をかく賢さが必要なのさ。 つまり?」
そこまで説明すると、ヒソカは目を細めて私に回答を促してきた。
『つまり……本当の試験は、軍艦島からゼビル島への脱出ではなく、軍艦島で行われる。 いや、現在進行形で行われて“いる”!』
「ご名答♥」
当たってた! 自分でもびっくり!
『あ、またこの音』
通信室にいた時に聞こえた暴風の音。 確実に近づいてきている。
「これは荒れるね」
『ヒソカ聞こえるの? ゴンと私だけかと思ってた』
「微かにだけどね。 それよりも――」
『ん?』
喋ってる途中で急に黙るヒソカ。
どうしたのかと聞く前に、誰かに呼ばれた。
〈――ニーナ、聞こえるか? 操縦室まで来てくれ〉
近くにあった金色の管からクラピカの声がする。
「忙しくなりそうだね。 また今度ゆっくり話そう」
話の続きを聞く前にヒソカは去ってしまった。
私も急いで操縦室へ向かうと、そこには残った受験生達が集まっていた。
ゴンが船長の日誌を見つけ、その内容からゼビル島が1日で行ける距離にあることが分かった。
先程のヒソカとの会話でゼビル島へ行くのは間違いだと伝える前に、外の騒がしさに遮られてしまった。
何かに怯えるように飛び去って行くカモメの隙間から見えたのは、脱出用の小型船で出て行く受験生達。
日誌を読み進めていくと、当時の乗組員達はこの船を放棄して避難していた。 その原因がこの暴風。
大気の歪みと水位の急激な上昇、竜巻と渦潮が一体となった10年に一度の天体現象がまさに今始まっていた。