第19章 とある民族学者の論考 Ⅲ
「ッあぁああ゛痛ってェーー!!」
瓦礫を押し上げながら叫んでいるのはウボォーギン。
「イテテテ……危うく死ぬところだったね」
押し上げられた瓦礫の下から這い出て来たのはシャルナーク。
火傷や切り傷を負っていながらも、2人はいつも通りの調子で歩きだした。
「おーい!!誰か返事しろーッうお!?」
「……うるさいね」
足元の瓦礫が突然勢い良く舞い上がる。
そこから出てきたのはフェイタンとフランクリン。
2人も怪我を負っていたが、命に別状はなさそうだった。
「後は団長とマチを探さなきゃ」
シャルナークは腰に手を当て、周囲を見渡した。
「あ!いたいた。団長ー!マチー!」
大きく手を振りながらシャルナークが2人の元へ駆けていく。
マチは服の土埃を払っていたが、駆けて来るシャルナークと他の団員達に気付くと、近くにいたクロロへ声をかけた。
「団長、みんな無事みたい」
「ああ……」
瓦礫の上に腰を下ろしているクロロは力なく返事をする。
「あれ?団長なんか落ち込んでない?」
「うん。書斎にあったレアな本が燃えちゃったのがショックみたい」
「あ~なるほど」
そう。
クロロが落ち込んでいたのは、『新世界紀行』が燃えてしまったからだった。
「今回は収穫ナシか……まぁ、そんなに落ち込むなって団長!」
ウボォーギンはクロロの隣にしゃがみ込み、肩をぽんぽんッと叩いて励ます。
「落ち込んでても仕方ないか……ありがとう、ウボォー。収穫はあったんだ。研究論文は見つけられなかったが、この日記を見つけた」
クロロは立ち上がり、懐から取り出した日記を顔の高さまで掲げて皆に見せる。
その時、ページとページの間に出来た隙間からひらりと何かが滑り落ちた。
「ん?何か落ちたぞ、だん…ちょう……」
それを拾ったウボォーギンが目を見開いて固まってしまった。
「ウボォー?」
皆の視線がウボォーギンに集まる。
シャルナークの呼びかけで我に返ると、彼は慌ててそれをクロロへ渡した。
「これは写真か。かなり昔に撮られたものみたいだが……この女性に見覚えでもあるのか?」
手渡された写真を確認し、クロロは視線だけをウボォーギンへ向ける。
「いや……」
「そうか」
彼はクロロと視線を合わせることなく短く答えた。