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覇者×ト×敗者

第19章 とある民族学者の論考 Ⅲ


本体からの指示で書斎から指定の部屋へそれぞれ向かう。

残った13体の“生きる屍”(ウォーカー)が相手になっているにも拘らず、男と女は攻撃をすんでのところでかわし、囲まれないよう殴打や蹴りで間合いをとっていた。

女は再び鋼の如く丈夫な糸を手に纏い、こちらへ向かってくる。
また能力を発動出来る_____そう思ったのも束の間。
足に糸が絡まり、バランスを崩して倒れた瞬間にはもう既に糸は消えていた。

認めたくはないが、あの小僧の言った通りだ。
私は未熟で、己の能力を自ら相手に教えてしまった。
今までのやり方が通用していたのは、相手がただの素人だったから……

でも諦めるわけにはいかない。そんなことは許されない。

男の右手にオーラが集まる。能力を発動するつもりか。
女と同じく殺傷能力の高い攻撃は仕掛けてこないはず。
動きを封じるのが目的。能力の発動を阻止せねば。

3体なら無傷では済むまい。
男を3体で囲い込み、さらにその背後から3体が同人に剣を投げ飛ばす。

「団長!!」

「!?」

瞬間、書斎が灼熱の渦に包まれた。
天井は吹き飛ばされ、床は崩れ落ちる。
旦那様が大切にしていた本や研究論文も……全て炎に包まれて消えてゆく。

他の連中が能力を発動する前にはやく自滅しなければ。
“生きる屍”(ウォーカー)はもうそれぞれ配置につかせた。
黒い剣を己の首にひたりと当て、後はこのまま引くだけ。
それだけなのに、手が震えて出来ないッ……


______怖い。


死など怖くなかった。また生き返るから。
しかし本体が自滅をしてしまったら、課した制約と誓約によって本当に死んでしまう。

死後の世界など信じていなかった。
だがいざ自分の死期が迫ると考えずにはいられない。
私はきっと旦那様と同じ場所には行けない。
多くの命を殺めてきたから……

今までの生き方に後悔はない。ただ……怖いだけ。
天涯孤独だった私を、任務で仕えているだけだった私を、友のように、家族のよう接してくれた……


_____旦那様の為に死ねるのなら本望!!


迷うな。
手に力を込め、剣を引こうとしたその瞬間、本体が見ている光景が流れ込んできた。



一緒にいる“生きる屍”(ウォーカー)の頭部が貫かれている!!

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