第18章 とある民族学者の論考 Ⅱ
捨て子だった私は道端で餓死寸前だったところをハンター協会に保護され、ハンターとして新たな人生を得た。
そんな私の初仕事が、とある民族学者の用心棒だという。
正確には、
“研究論文をツェザールの家から持ち出させないこと”
が私の任務だ。
万が一盗まれるようなことがあれば、文字通り消滅させなければならない。
正直、そんな地味な仕事は嫌だったが助けてもらった恩があるので引き受けた。
最初の頃は、毎日アンネという女性のことを聞かされてうんざりしていたが、時が経つにつれてその名前を聞く回数はどんどん減っていった。
それでも旦那様は彼女のために家を建てたり、やったことのない庭いじりを一生懸命やっていた。
そんな一途で真っ直ぐな旦那様を見ているのはとても辛かった。
なぜ彼女は戻って来ない。
十年、二十年、三十年と月日が流れても、アンネが戻って来ることはなかった。
引退した旦那様は、これからこの家でずっと暮らす。
この家にいるとアンネのことを考えずにはいられないだろうに。
それでも旦那様は庭のベンチに座って花を眺めたり、書斎で読書をしたり、遊びに来た教え子達と談笑したりと穏やかな日々を過ごしていた。
ずっとそんな日々が続くと思った矢先、旦那様が倒れた。
医者に診てもらったが体のどこにも異常はなく、精神的なものだろう言われた。
その日から、旦那様は不可解なことを言い始めた____