第18章 とある民族学者の論考 Ⅱ
1974年10月27日
国際環境許可庁・特別渡航課の職員数名が訪ねて来た。
数日前に見たことについて詳しい話を聞きに来たのだ。
警察官に見たままのことを説明しても、彼等は顔を顰めてまともに話を聞いてくれなかった。
この人達も同じだろうと思ったがそんなことはなく、私の話に真剣に耳を傾けてくれた。
一通り話し終えると彼等はいくつか質問をした後、お礼を述べてあっさり帰ってしまった。
一体何が起こっているのだ。
あの不可解な出来事は、まるで空想小説が現実に___
確か、新世界紀行に縄状に捻り殺された人間の記述があった気がする。
あの本を読み返す必要がありそうだ。
本棚の隅に追いやられていたそれを取り出したはいいが、開くのが怖い。
ただの空想小説だと思っていた、あの生き物全てが実在しているかもしれない。
知らない方が幸せかもしれないが、好奇心が恐怖心よりも少しだけ上回ってしまった。
恐怖で震えながらもページを捲ってしまった。
縄状に捻り殺された人間についての記述を見つけた。
私がみた光景そのものが書かれている。
なんてことだ、この本は空想小説などではなかった。
恐ろしい生き物がこの世界のどこかに、確かに存在している。
ということは、巨人・ティフォンも存在していることになる。
私はなんて馬鹿なんだ。
あの巨大な世界樹が全てを物語っているではないか。
あんな巨大な樹があるのだから、巨大な人間、巨人が存在していても不思議ではない。
ある民族は、巨人のことをティタンと言う。
これは、ティフォンが訛ってティタンという言葉に変化したのではなかろうか?
アマゾネスがティフォンと重なるのは、これも突拍子もない推測だが、アマゾネスは新世界からこちらに渡って来たティフォンの子孫なのかもしれない。
異性と性的接触を持つようになったのはこの世界の環境に適応するため?
アンネは強い子孫を残すためだと言っていたが、これでは退化しているのでは?
いや、やはり進化なのでは?
今思い出したのだが、最近発表された単為生殖についての研究論文には、単為生殖で生まれた固体は極めて短命だと述べられていた。
その欠陥を補うために異性を求めているのかもしれない。
知りたいのに、今ではもう彼女達について研究することは叶わない。