第18章 とある民族学者の論考 Ⅱ
1974年10月18日
書く手の振るえが止まらない。
街で恐ろしい光景を見てしまった。
講義を終え、喫茶店で紅茶でも飲んでから帰ろうと考えながら歩いていたときだった。
数メートル先を歩いていた人が、突ぜん と とつ ぜん と
文字にするのも恐ろしい。
今も恐怖による涙で視界が滲んでいる。
少し落ち着いてからまた続きを書こう。
先程より幾分か落ち着くことが出来たので、続きを書こう。
私の先を歩いていた人が突然視界から消えたのだ。
いや、正確には消えたと思った。
顔に何かが飛び散ったのを感じて拭うと、指先が赤く染まった。
手を見た拍子に、地面に落ちているモノが視界に入る。
捻れた縄に見えた。
しかし、その物体から流れ出ている赤が、私の顔にかかった同じ赤だと認識した途端、口を手で押さえたが耐え切れず、胃の中から込み上げて来たものを吐き出してしまった。
今でも気を抜いたら吐いてしまいそうだ。
あれは捻れた人間だ。間違いなく。