第18章 とある民族学者の論考 Ⅱ
1952年1月20日
懐かしい日記を見つけので、こうして久方ぶりに書いてみることにした。
最後に書いた日から10年以上も経っている。
時が経つのは早いものだ。
かつてアンネと訪れたあの小高い丘がある土地を購入し、家を建てた。
ドナに手伝ってもらい、家の周りにたくさんの花を植えた。
長期の連休にしかこの家へ来れないが、ドナを含む数名の使用人達のお陰でいつも綺麗に保たれている。
この家を見たら、きっとアンネは喜んでくれるだろう。
まだ心のどこかで、アンネがひょっこり現れるのではないかと期待している自分がいる。
私は教師になるという夢を叶え、才能溢れる生徒達に囲まれて充実した日々を過ごしている。
けれど、どんなに楽しい思い出が増えようといつも言い知れぬ悲しさを感じる。
一層のこと、彼女の何もかもを忘れられたらどんなに楽だろうかと考えるときもあるが、直ぐにそんな馬鹿な考えを頭から振り払う。
今の私が存在するのは彼女のお陰だというのに。