第18章 とある民族学者の論考 Ⅱ
1928年5月26日
野宿にも慣れて、最初の頃よりもぐっすりと眠れるようになった。
日銭を稼ぎながらいくつかの国や街を巡ったが、アンネのお気に召すような強い男とはまだ出会えないまま。
最近、このまま出会わないでずっとアンネと旅を続けたいと思い始めている自分がいる。
私はなんて最低な人間なのだろう。
旅の目的を邪魔しないと約束をしたのに、密かにそんな最低なことを願ってしまっている。
私は彼女の求めるような強い男ではない。
今まで体を鍛えることにしか能がない筋肉馬鹿にだけはなりたくないと思っていたが、初めてひ弱である自分を憎んだ。
そんな私の気持ちを知る由もない彼女は小高い丘へと駆けていく。
後を付いていくと、気持ちのいい風が私の悩みを拭うかのようにかのように全身を優しく撫でてゆく。
アンネは芝生の上に寝転がり目を閉じる。
彼女の隣に腰を下ろすと、彼女は静かにこう言った。
「こんな場所で暮らせたら幸せ」
この言葉を聞いて私は決意した。
この土地を買い、家を建てよう。
たとえ生涯を共にすることが叶わなくても、一時の憩いの場所を作ってあげたい。
そう言えば彼女は嬉しそうに笑った。