第18章 とある民族学者の論考 Ⅱ
1927年9月15日
バーバード大学での新たな学生生活が始まった。
創立者は私の曾祖父だが、身内だからといって特別な扱いはなく実力で合格を勝ち取った。
これから多くを学べることに胸が高鳴っている。
私は主に民族学と言語学を学んでゆく。
彼等の文化・社会・思想がどのように形成されていくのかを考察するのが私の生きがいと言っても過言ではない。
どんな民族に出会えるのか楽しみだ。
祖父から本を渡された。その名は新世界紀行。
私がバーバード大学へ入学する日が来たら渡すようにと、祖父が今は亡き曾祖父から預かっていたものだった。
存在を知ってからずっと欲しかった本。
今では幻書となっているこの本を、まさか手にできる日が来ようとは夢にも思っていなかった。
出版当事は狂人の妄想だと言われていたこの奇書をさっそく読んでみた。
内容は、
謎の古代遺跡を守る正体不明の球体 兵器“ブリオン”
欲望の共依存 ガス生命体“アイ”
殺意を伝染させる魔物 双尾の蛇“ヘルベル”
快楽と命の対価交換 人飼いの獣“パプ”
希望を騙る底なしの絶望 不死の病“ゾバエ病”
など、どれもゾッとするような信じがたい怪異な生き物が多く載っていた。
狂人の妄想だと言いたくなるのも少し分かる。
人間が縄状に捻り殺された姿など想像するのも御免だ。
内容は面白いが、少々気分が悪くなってしまった。
読むのを中断しようと思ったとき、とても興味を引かれるページを見つけた。
大地を踏み鳴らす覇者 巨人“ティフォン”
興味を引かれたのは彼等を、いや、彼女達を民族だと無意識のうちに認識したからだろうか。
本によるとティフォンは雌、もとい女性のみの存在が確認されている。
単為生殖という異性と性的接触を持つことなく、単独で子をなすことができるそうだ。
この繁殖方法には聞き覚えがある。
確か、神話でよく聞く処女懐胎は、この単為生殖だという説を唱える学者の論文だった気がする。
とても興味深い。
本を読み始めたときは実在しないことを願ってしまうような生き物ばかりだったが、巨人・ティフォンが実在するのなら是非この目で見てみたいものだ。