第17章 とある民族学者の論考 Ⅰ
使用人は2人に任せるとして、クロロは日記を読み始めた。
しかしその数分後、近付いてくる殺気を感じて静かにそれを閉じる。
マチは入り口からの死角に身を潜め、その人物を待ち構える。
「あの2人を振り切ったのか。なかなかやるな」
クロロはドアの正面奥に位置する書斎机に寄りかかりながら笑みを浮かべた。
マチはいつでも使用人を捕獲出来るよう両手に念糸を纏わせる。
「………」
「………」
近付いてくる足音は書斎の前で止んだ。
ドアはゆっくりと開かれていたが、使用人の女がクロロの姿を認識するや否や、
「盗人どもッ!!」
ドアを乱暴に開け放ち、半狂乱になってクロロ目掛けて走り出した。
「あ゛ぁッ!?」
「大人しくした方が身のためだよ」
振り上げられた黒い剣が彼に届くより先に、死角から現れたマチによって捕らえられた。
「さて、いくつか質問に答えてもらう。一つ目は、アマゾネスについての研究論文の在処だ」
「ッ!?」
女はハッと息を呑んで目を見開いた。
クロロにとってはその反応だけで十分だった。
彼女はどこに研究論文があるのかを知っている。
後は吐き出させるだけだと。
「さっさと場所を言いな。さもないと___」
「ぅぐッ」
マチが人差し指と中指に力を込めれば、女の首がより一層強く絞まる。
「……だ、んな…様……ドナがッ……か…な、ら……ず」
「コイツ!?」
いくらもがいても念糸から逃れることは不可能。
体に食い込むばかりで、息苦しさと痛みを感じているはずなのに、女は尚も体に力を込め続けている。
抑え込むためにこれ以上念糸を強く締めてしまったら女を絞殺してしまう。
もがく女を見つめながらクロロは心の中で溜息を吐いた。
この類(タイプ)の人間はいくら痛めつけても決して口を割らない。
パクノダがこの場に居ないのが残念だ。
彼女なら、相手がいくら口が固くても欲しい情報を全て引き出せる。
クロロは当然彼女にも参加を呼びかけたのだが、本人の都合が悪かったので仕方ない。
この女をどうするか考えていると、突然奇声を発しながら床を力強く蹴った。
「団長ッ!!」
念糸が皮膚に食い込もうが首が絞まろうが構うことなく一目散にクロロへと向かっていく。
その予想外の行動に、マチは反射的に手に力を強く込めてしまった。