第17章 とある民族学者の論考 Ⅰ
2階の廊下を歩くクロロとマチ。
クロロは等間隔に並んでいるドアを次々と通り過ぎて行くばかりで一向に部屋へ入る気配がない。
目的の部屋でもあるのだろうかと思ったマチはただ黙って付いて行く。
「ここだ」
クロロが突然ひとつのドアの前で止まった。
他のドアと同じで特に変わったところはない。
なぜこのドアに決めたのか疑問だったが、中へ入って直ぐに理由が分かった。
「団長、ここが書斎だって知ってたの?」
「いや、勘だ」
クロロが本好きなのは団員の皆が知っている。
だが、書斎の場所を勘で当ててしまったことにマチは驚いた。
壁を覆い尽くす書棚に所狭しと並べられている本にクロロは瞳を輝かせて見入った。
その内の一冊の本を手に取ると、その表紙を撫でながら興奮気味に呟いた。
「これは凄いな」
一体どんな本なのだろうとマチが後ろから覗き込む。
「『新世界紀行』……この本がどう凄いの?」
「今では幻書になっている、数百年前に発行されたものなんだ」
「そう、なんだ」
凄いのは分かったがいまいちぴんとこなかったマチは、クロロが本を眺めている間、書斎机の引き出しを調べることにした。
引き出しの中にあった書類に目を通してみるも、どれもクロロが欲しがるような内容のものではなかった。
最後の引き出しを調べようとしたとき、彼女はその引き出しに違和感を感る。
中にある書類を取り出そうと手を入れとき、他の引き出しよりも底が浅いと感じたのだ。
底を軽く拳で叩いてみると空洞音がする。
その引き出しが二重底になっていると分かり、底を取り外して中に入っているものを取り出した。
さほど大きくはないがずっしりと重い。
年季が入っているその表紙には所々傷ができており、たくさん読み込まれた痕のよれも目立っていた。
マチが中身をパラパラと流し読みしていると、ある言葉が目に留まり急いでクロロを呼んだ。
「団長!これ見て」
クロロは手にしていた『新世界紀行』を一旦元の場所に戻し、マチから本を受け取った。
「これは、ツェザールの日記……?」
「みたいだよ」
他にも隠されているものがないか調べようとしたマチだったが、部屋の外の騒がしさに手を止めた。
「フランクリンとフェイタンが使用人に当たったか」
「ならすぐに片が付くね」
「そうだな」