第17章 とある民族学者の論考 Ⅰ
「捕獲完了っと」
「準備運動にすらならなかったぜ」
「後はフェイタンにお願いするか……あれ?」
「ん?」
「まだ銃声聞こえてない?」
「ああ、聞こえる」
2人はこの女がフェイタン達の所から来たと思っていた。
だが彼等はまだ誰かと戦っている。使用人はひとりだけのはず。なら一体誰と?
「彼等も使用人と戦ってるのかな?」
「マチが言ってたな、分身かなんかを作る能力者の可能性があるって」
「うん。とりあえず、コイツを連れて一旦合流しよう。そうすれば何か分かるかも」
フェイタン達と合流するために2人は入り口へ向かう。
シャルナークが女を一緒に歩かせるために“携帯する他人の運命”(ブラックボイス)を発動させようとしたが___
「ッウボォー後ろ!!」
ハッと何かに気付いたシャルナークが叫ぶ。
「なッ!?クソッ」
能力を発動することは叶わなかった。
条件を満たしても能力が発動されないのは既に別の能力者によって操作されているからであるため、
女はまだ自由に動ける
そのことを伝えようとシャルナークが叫ぶが、女は既にウボォーギンへと剣を振り下ろしていた。
頭でどうするかを考えるよりも先に、彼の体は反射的に動いた。
振り向きざまに上半身を僅かに横へずらし、剣とともに飛び込んできた女の腹部にオーラを込めた拳をめり込ませた。
「しまったッ」
オーラの量を調整するのを忘れて殴ってしまったため、女の体は無数の肉片と化して床に散らばった。
「バラバラにしちゃったの団長も分かってくれるよ……たぶん」
「……コイツ、オレの拳を受ける瞬間にオーラを消しやがった」
「え?」
ウボォーギンは拳を握ったまま、床に散らばる残骸を真剣な表情で見つめる。
その横でシャルナークが顎に手を当ててその理由を探る。
「そんな自殺行為をした理由はなんだろう」
念を用いた戦いなら、絶や硬を使う時以外は常に堅で体全体を防御する。
だが女は不自然なタイミングでオーラを消した。
ウボォーギンの攻撃が腹部に当たるのは明白だったため、堅ではなく硬を使って防御していてもおかしくない状況だった。
「絶を使う必要性は全くなかったから、腹部以外の箇所を攻撃されると思って、硬を違う部位に使った判断ミス……っていうわけじゃないよね」
「ああ。腹に当たるっていうのは明白だった」
