第17章 とある民族学者の論考 Ⅰ
フェイタンとフランクリンは最初に目に付いた部屋を調べることにした。
そこは応接間であり、研究論文が置かれているようには思えなかったが、2人は一応調べて見ることにした。
「団長が欲しがるようなモノはなんもねーな。手っ取り早く書斎から探すか?」
「ああ。でもその前にやることあるよ」
「だな」
閉ざされているドアの向こうに気配を感じて身構える2人。
ドアを注視していると、ゆっくりとドアノブが捻られていく。
キィ…と小さく軋んで開かれたドアの向こうにいたのは老齢の女。
普通の人が見たらきっとこの女の風貌にぞっとするだろう。
生気を感じられない青白い顔に深くくぼんだ目。頬の肉は落ちて骨の形がはっきりと分かる。
黒い衣服を纏っている彼女は死神そのものだったが、その憎悪に満ちた目は鋭い眼光を放っていた。
「コイツが例の使用人か」
「間違いないだろう」
纏うオーラから念の使い手だと分かる。
それに、クロロの話で聞いた黒い細身の剣も持っていた。
「ワタシが相手するよ」
「任せるぜ」
使用人は生け捕りにして情報を吐かせる必要がある。
後に拷問する必要があるならば、この場はフェイタンに任せるべきだと判断してフランクリンは後方で傍観することに決めた。
「低俗な盗人は晒し首だッ!!」
見た目に反して女の動きは素早く、応接間に置かれているソファーやテーブルを飛び越えてフェイタンへと斬りかかった。
フェイタンは持っていた傘から瞬時に仕込み刀を抜き取り女の剣を受け止めた。
「……そう」
フェイタンが只者でないと察した女は一瞬だけ思案顔になったが、すぐに剣を構えなおして再びフェイタンへと斬りかかる。
フェイタンは顔色ひとつ変えることなく女の剣を受け止めつつ、捕らえるための隙を窺う。
「フェイ!」
「__チッ」
「あーあ。真っ二つになっちまった」
床に胴体から二つに切断された女の体が転がる。
「勢い余って殺しちまったな。ま、死んじまったもんは仕方ない」
フランクリンがそう言うも、フェイタンはどうも納得がいかない様子で死体を見つめる。
「避けることもできた。なのにコイツ何もしなかたよ」
「わざと斬られるメリットなんてあるか?歳なんだし、一瞬の判断ミスが命取りになったんだろ」