第17章 とある民族学者の論考 Ⅰ
ツェザールの家は、街から少し離れた静かな場所に建っていた。
家は、手入れが行き届いている広い庭の遥か奥にあるが、その立派な佇まいは遠目からでも分かるものだった。
だが、その立派な家と庭を囲う石塀には、クロロが話した通りの黒く変色した部分があり、人を寄せ付けんとする不気味さを放っている。
「立派な家だこった」
「大きい分探すの大変ね」
「壁を壊していけば探し易いんじゃねェか?」
「………」
「………」
家を眺めているフランクリンとフェイタンの後ろでウボォーギンが真面目な面持ちで提案したが、2人が同意することはなかった。
「何処に有益な情報が隠されているのか分からない以上、あまり派手に暴れないでくれ」
「心配するこたァねーぜ団長!暴れるのは使用人をとっ捕まえるときだけだからよ!」
「………」
自分が遠回しに注意されていることに気付かないで笑うウボォーギンに、皆心の中で溜息を吐いた。
庭を通り抜ける途中で、クロロが中で行動を共にするペアを皆に伝える。
「家の中では2人一組で行動してくれ。オレとマチ、フェイタンとフランクリン、ウボォーギンとシャルナーク」
各々「了解」と短く返答し、辿り着いた目の前の家に神経を集中させる。
クロロが先頭に立ってドアノブを捻ると鍵はかかっておらず、あっさりと開いた。
「不用心な使用人だな。鍵すらかけねーとは」
フランクリンが呆れたように呟く。
「鍵なんてワタシ達盗賊には意味ないね」
「まぁ、それもそうだな」
中へ入ると、まず目に飛び込んできたのは気品溢れる真っ赤な絨毯が敷かれた玄関ホールと中央階段。
「あちから調べるよ」
「ああ」
フェイタンとフランクリンは中央階段右側の通路へ進んだ。
「オレ達も急ごうぜシャル」
「ウボォー、団長の言ってたこと忘れてないよね?」
「大丈夫だって!」
シャルナークは困った表情を浮かべながらも、楽しそうにウボォーギンと会話を交わしながら中央階段左側の通路へと消えていった。
「オレ達は2階から調べよう」
「ええ」
クロロとマチは中央階段を上がっていく。
再び静寂に包まれた玄関ホールに恨めしそうな表情の女がひとり佇む____
「低俗な盗人どもめ……旦那様のお屋敷を荒らす者は許さない」