第17章 とある民族学者の論考 Ⅰ
「ツェザール本人は既に亡くなっているが、家には使用人がひとり残っている。そして、恐らく念能力者だ」
「ヤる気が出てきたぜ」
「どうしてその使用人が念能力者だと思うの?」
戦う相手が念能力者だと分かって喜んでいるウボォーギンの隣でマチが疑問を口にする。
「ツェザールはあの有名なバーバード大学の名誉教授であり、彼の曾祖父はそこの創立者。金目のものがあると考えるのは当然のことで、よく強盗が押し入るそうだ。家にいるのが使用人ひとりだけだと分かっていてな」
クロロはその使用人について知っていることを話した。
使用人は捕らえた盗人を殺して、晒し首にする狂人だと地元では有名になっている。
家を囲っている石塀は所々黒く変色しており、それは生首から滴った血の痕だといわれている。
ある日、静寂に包まれた真夜中に血まみれの男が助けを求めて警察署へ駆け込んだ。
男は自分が8人の集団で学者の家へ強盗に入った盗人であり、使用人"達"に襲われて命からがら逃げてきたのだと話した。
罪は償うのでどうか仲間を助けて欲しいと頼まれた警官達は、その学者の家へ男と共に向うことにした。
現場へ到着した警官達と男は、石塀の上に並べられた男の仲間だと思われる7人の変わり果てた姿に言葉を失うが、文字らしきものに気付いて懐中電灯で照らすと、
あとひとり
___と、赤で書かれていた。
警官達が恐怖で動転しながらも応援を呼ぼうとしたそのとき、シュッと空気を切り裂く音と共に何かが地に倒れる音がした。
恐る恐る振り返ると、額に黒い剣が刺さった状態で男が息絶えていた。
完全にパニックに陥った警官達はその場から一目散に走り去り、後日その場へ戻った彼らが目にしたのは、8個に増えた首だった。
「使用人はひとりだけのはずが、中へ入った人間は使用人"達"と述べた。おかしいだろ?それに、よく強盗に狙われているにも拘らず警備員を雇うこともない」
「使用人が複数いる場合それを隠すメリットがない。相手はひとりだけだと油断させるための作戦だとしても、強盗に目をつけられる可能性が高くなるだけ。つまり、使用人は本当にひとりだけで、分身を作れる能力者の可能性が高いということだね」
「その通りだ」
「それで、その能力者はどうする?」
「先ずは有益な情報を持ってないか吐かせてくれ。その後は好きにしていい」
「了解」
