第12章 函館で三輪自動車に轢かれかけたと思ったら誘拐された
「兄さあは色白でオイは桜島大根っち、からこうたたっどん………。
一度もはらかかんかった。
じゃっどん(でも)オイが危なか事したりするとがられた(叱られた)」
「…………素敵なお兄さんだね」
音之進の話を聞きながらは色白の音之進を大人にした感じかなと音之進の兄を想像していた。
「海軍少尉でオイの憧れやった」
そう言って音之進は俯いた。
「オイと違うて立派な海軍将校になるはずやったのに…………」
音之進は溢れる感情を抑えるように下唇を噛んだ。
その様子には音之進の兄が亡くなった事を察した。
「オイは鯉登家の落ちこぼれじゃ。
兄さあのようになれん。
きっと海軍兵学校も落ちる」
と音之進の間に沈黙が流れる。
「…………別にお兄さんのようにならなくてもいいんじゃないかな?
海軍だって音之進くんのお父さんが強制してる訳じゃないなら海軍にならなくったっていいんじゃないかな?」
の言葉に音之進は驚き目を見開く。
「父上は海軍の……………」
「それ、いつも思うんだけど父親が海軍だからって理由で子供が海軍に入らなきゃいけないっていうのおかしいと思う。
もしかしたら海軍よりも陸軍で活躍するかもしれないじゃない」
「そんな事思いもせんかった…………」
まるで目からウロコが落ちたような表情の音之進。
「まぁ、私が父親が陸軍のせいで無理矢理陸軍に入らされたからそう思うだけだけど」
は大きくため息をついた。
「陸軍に入りとうなかったんか?」
「そりゃもう!!
だって何やってもあの男の子供だから当たり前って目で見られるんだよ!?」
の力説に音之進は思わず吹き出した。