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ゆるやかな速度で

第13章 11.視線


「大丈夫ですか?凄く百面相でしたけど…」
「あ…。その…渡邊先生に対して凄く自惚れた発言をしちゃったなと思って…」
「先輩がですか?」

野宮くんに先ほどの渡邊先生との会話をかいつまんで説明すると彼は笑うでもなく真剣に話を聞いてくれた。

「でもそれって先輩が僕たち後輩の事を思ってくれたってことですよね?嬉しいです。ありがとうございます」
「そんな…!私…全然部活動とかに関わってなかったのに、こんな発言しちゃって…。先生の思惑とかも理解できてなくて駄目だなって反省してたの。多分それで…」
「さっきの百面相だったってことですか?でも僕は本当に先輩が僕たち下級生の練習の事とかも気にかけてくれてたって事が嬉しいんで、お礼言わせてください」
「野宮くん…。私こそありがとう。野宮くんにそう言って貰えて少し救われる」

野宮くんの優しい言葉に私は少しだけ先ほどの罪悪感が薄まるのを感じた。
彼の表情からは気を遣ってではなく、心からそう思って発言してくれているのだと感じられたからだ。
私こそ野宮くんの言葉がとても嬉しかったと再度告げていると、昼休みが終わる予鈴が廊下に響き私たちはその場を慌てて後にしたのだった――。

***

それから数日間、私は先生に言われたことを肝に銘じて部活動に勤しんでいたのだけれど、ふとした瞬間に背中に視線を感じるようになっていた。
視線を感じるたびに振り返ってみてもテニスコートの周りはいつも通りで、女子生徒が何人かいるだけで、その誰もが私の方は見ていなかった。
たまに部活動見学をしている下級生の男の子がいたり、他の部活の顧問の先生が見たりはあるけれど、ここ数日毎日何かしらのタイミングで視線を感じていたので彼らは全然関係なのだろう。
私はこの視線が気のせいなのか何なのか分かりかねて、つい作業の手を止めてコートの外側をボーっと見つめてしまう。

「どないしたん?【名前】ちゃん?」

そんな私の行動を不思議に思ったのだろう。
近くで小休憩を取っていた小春くんに声を掛けられる。
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