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ゆるやかな速度で

第10章 8.合宿02


勝手に1人で身構えてしまっていたけれど、そこまでしなくても良いのかもしれないと思い私は再度金太郎くんと千歳くんを見る。
2人はニコニコと私に対して微笑んでいてくれた。
2人からしたらそこまで大したことはしているつもりはないのかもしれない。
私に対して普通にしてくれているという行為自体が私にはとても嬉しい事だった。
だからこそ身構えずに、友人――綾子ちゃんと一緒にいる時の様にすれば良いのだと思った。

「あの…その、千歳くんさえ良ければ」
「俺は歓迎たい」

千歳くんのここまで圧勝してしまう事自体には興味があったから私は彼との対戦をお願いする事にしたけれど、千歳くんは私のそんな心情を知ってか知らずか朗らかに笑ってくれる。
彼らしいカラッとした表情に私も自然と笑みが溢れる。
そして私は金太郎くんに『こっちや』と彼が座っていた席を開けてもらった場所へ腰をおろす。
千歳くんの正面に座り、先程までの盤上を綺麗に片付けてから私は『宜しくお願いします』と告げる。
私達の対戦はこうして開始されたのだった――。

***

千歳くんとの対戦はとても苦戦を強いられた。
別に私自身が強いだなんて思ってはいないけれども初歩的な戦術では手も足も出ない。
というより私の考えを1手も2手も…それよりも先のことまで読まれている様な感覚に陥ってしまう。

チラリと目の前にいる千歳くんを見れば彼は真剣な表情でオセロの盤面を見ていた。
彼の真剣な眼差しは、このオセロを彼は本気で挑んでくれているという事がわかる。
私の事なんて簡単に圧勝出来ると思うのに真剣に勝負をしてくれているという優しさが私には嬉しく思った。

「ん?何か俺の顔についとるとね?」
「あ、ごめんなさい。ジッと見つめたりして」
「大丈夫ばい」

私の謝罪にも大らかに気にしないでくれる千歳くんに感謝して私も彼の様に真剣に勝負せねばと意識を目の前の盤上に戻す。
さて、これからどこに自身の駒を置けば良いのだろうかと私は思案を再開したのだった――。
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