第2章 うつけの婚礼
翌朝。信長は部屋に僅かに刺した光で、目を覚ました。
(もう、朝……)
起き上がり、少し衣服がずれたことで、違和感を覚えた。
(晒がない……────ああ、そうか、わたしは……)
自分の横で眠る愛しい人を見つめる。やはり化粧をしなくとも美しく凛々しい。昨日よりも男らしく、頼もしく見えるのは、きっと。
わたしは、この方の……
(俺は、この人の夫になったのだな……)
「これからよろしくな、帰蝶。」
その数分後、帰蝶も目を覚ました。物音がしたほうを見ると、すでに信長は着替えを終えていた。
帰蝶の方へ振り向くとわずかながら微笑みを浮かべたが、完全に向き直ったときは、「織田家嫡男の男」の顔になっていた。
「お早う、濃。」
その眼差しに射抜かれ、しばし固まった帰蝶だが、艶やかに笑い、言葉を返した。
「おはようございます、旦那様。」
信長と帰蝶、波乱の夫婦生活は始まったばかりであった。