第2章 うつけの婚礼
おもむろに帰蝶を抱き寄せた。
こうしたのは同情を求めるためではないのかと確かめるために。
ふと湧いた感情を知るために。鼓動が早くなった理由を知るために。
抱き寄せられ、帰蝶は一瞬驚きはしたものの、やんわりとそれを拒んだ。
「それは、その思いは本当に夫婦になることを望んでいるのですか?……そうでないとしたら、私は夫婦になることは拒ませてもらいまする。」
そう言って信長を見つめる瞳は、姫ではない。男の顔だった。その目に射抜かれ、さらに心を読んだような事を言った帰蝶に信長は驚きつつも、それ故に自分の気持ちを、この想いを悟った。
(わたしは、この人が……この殿方が好きなのだ。────女として、この人を愛してる。)
・・・・・
「ええ。わたしは貴方を夫としたい。……貴方は、どうなのですか?わたしを、受け入れてくれますか?「大うつけ」の俺を。男として生きている、わたしを。」
そうして再び帰蝶に抱き着いた。今度は帰蝶も拒まなかった。自分はきっと、この方に一目で恋をしたのだ。──この、覇王の如き姫に。
「ええ。貴女が私を拒まぬのなら。貴女を愛していますゆえ。喜んで、貴女を受け入れましょう。貴女の、夫として。貴方様の、妻として。」
それを聞き、安堵したのか信長は、今までにないほど柔らかく笑った。
「ならば、わたしも、貴方様の妻として。そなたの夫として。」
「信、それがわたしの名前です。どうか、今はそう呼んで。」
「それならば。私のことも、真の名・蝶丸と
呼んで。」
「ええ。」
そうして、二人は唇を重ねた。