第5章 この音に隠れてなら
「さてと、もうお昼だね」
「…先輩と一緒に昼飯食うのもあと少しなんて、やっぱり寂しいです」
「花形…」
私は高校最後のインターハイでとても悔しい思いはしたけれど、この翔陽高校でバスケ部マネージャーができて本当に良かったと思う。可愛い後輩達に、いつも仲良くしてくれた同期達、頼もしい応援団。考えたら、全国に行ける経験だって並の学校ではできないのだ。それを毎年経験できた。神奈川でNo.2のチームなんて、私には勿体無いくらいの誇らしいチームだった。
それに――――――――。
斉藤くんをひたすら追い掛けて追いかけてここまで来たけれど、斉藤くんのことを好きだった頃よりも、今は毎日が楽しいと感じる。こんな気持ちにさせてくれる生意気なアイツに出会えて良かった……なんて。本人には絶対言いたくないけど、そう思ってる自分もいる。
「卒業してもみんなの尻叩きに来るからね!花形も気抜いちゃ駄目だよ!」
「えっ…それは困ったな」
花形の背中をバシバシと叩きながらお互いに笑い合った。花形は藤真とはまた違った落ち着きがあって、私は花形こそ次期部長にいいんじゃないかなーと勝手に思っている。藤真にはエースとして伸び伸びとプレーに専念してもらいたいなって。周りをよく気に掛ける藤真のことだから、きっとそれは無理なんだろうけど。
後輩達との大好きなお昼休憩の時間が終わると、私はロードワーク用の持ち物をまとめて、選手より早く給水ポイントに向かった。空からはゴロゴロという音が鳴り出していたけれど、今日は最後のロードワークだ。気合いを入れて皆を応援したかった。
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給水ポイントである公園に到着すると、ポツポツと雨が降り出してきた。
急いで屋根のあるベンチまで避難して、そこに荷物を一式下ろす。ここでは自分裁量で休憩していいことになっているけれど、だいたいみんな水分だけ補給してすぐに走り去ってしまう。でもその一瞬一瞬を今日は目に焼き付けておきたい。これが最後のロードワーク。曇天の空と相俟って急に涙腺が緩んできてしまった。グスっと鼻を啜りながらみんなの到着を待つ。