第5章 この音に隠れてなら
インターハイが終わった。
三年生である私達はこの夏休み中に引退することになっている。相も変わらず斉藤くんの彼女はバスケ部の練習が終わるのを待って、そのまま二人は一緒に帰っていく。藤真はというと早くも練習に復帰したし、正直私の心境は複雑極まりなかった。一緒に帰っていく斉藤くんと彼女を見ることが前より辛いと感じないからだ。その理由はもう明らかで。いやもう、わかりきっているんだけど。認めたくない自分も確かにいて。
ハッと気づいたら目の前で行われているミニゲームの場面は動いていた。藤真が次々と連続得点を決め始めたのだ。得点係をやっている私は大忙しとなる。
――――――藤真が三年生になった時、このチームはもっと強くなるんだろうな。
あの海南にだって勝てるかもしれない。そんな期待すら持たせてくれるくらい、藤真のプレーは力強かった。
「先輩、ちゃんと得点めくっといて」
「わ、わかってるよ」
サイドを走り抜ける藤真が私に向かって声を掛けた。その直後には既にボールカットをしていて。………こんなのズルいじゃん。360度見渡してるんじゃないかって視野の広さと、二年生にしてゲームを支配するリーダーシップ。藤真のプレーなんてもう2年間見てるのに、最近は一挙一動にドキドキしっぱなしだ。
「月丘先輩、今日は午後からロードワークですよね」
「うん、その予定だけど…」
一緒に得点係をやっていた花形が今日のメニューを確認してくる。そう、今日は午後からは学校を離れてロードワークの予定だった。コースは決まっていて、一周で約2kmほど。制限時間は決まっていないけど、5周終わった人から今日は帰れることになっている……んだけど。
「…降りそうですね」
「そうなんだよねぇ」
体育館の出口から外を見つめた花形と私は互いにボヤいた。曇天の空は今にも泣き出しそうに濃いグレーだ。湿気もすごいから間違いなく降るだろう。雨なんかで中止にするようなチームじゃないから、ロードワークは続行だと思うけど、走らなきゃいけない選手達に同情した。私は途中にある公園で給水係をするだけだからいいんだけど。