第7章 生意気だから
翌日の朝、目が覚めた時。
思っていたよりも頭はクリアだった。自分でも驚くほど冷静だ。顔を洗い、髪を整え、パンを食べる。何一つ普段の日常と変わりない。
――昨日、藤真とキスしたこと以外は。
もう、あの時から私の中で答えは決まっていたのだろう。本当はすぐにでも気持ちを伝えても良かった。それでも冷静に考える時間をくれた藤真。どこまでも生意気で笑えてしまう。そんな藤真にだから思いっきり気持ちをぶつけたい。
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学校へ行き、授業を受ける。
不思議と何も焦る気持ちはなかった。放課後の部活の時間に言うべきことを言うだけ。いつも通りにボトルやスコアボードを準備して、部員の到着を待とうと思っていたのだけど。
もう既に二年生達は体育館内でアップを始めていて。その中には当然藤真の姿もあった。昨日の雨にやられたのか、クシャミをしている二年生もチラホラいる。ガラガラと扉を開けた私に気付いたのか、藤真は床に座ってストレッチをしながら声を掛けようとしてくる。
「お。先輩チー」
「藤真!!!!!!!」
突然の私の大声に藤真も他の二年生達も目を丸くして驚いた。作業を中断して全員が視線をこちらに向けてくる。それまで雑談で賑わっていた空間が途端にシーンとなる。それでも私は止めようと思わなかった。全部全部この体育館で、気持ちをぶつけていきたいから。
「藤真、好き!今度は、本当に好きだから!」
体育館にいる全員の視線は私に刺さったまま。皆がいるところで言おうと決めていたものの、やはり恥ずかしくなってきたところで、座っていた藤真はゆっくりと立ち上がり、私に向かって言葉を投げてくる。
「ば――か!遅いんだよ、俺に一年も片思いさせやがって。今日は部活の後、絶対一緒に帰ってもらうからな」
二年生達はひゅうひゅうと口笛を吹き、「藤真イケメンかよ!」などと野次を飛ばしてくる。ガヤガヤと騒ぎが収まらない中、藤真は私に一歩一歩近付いてきた。
「…いいんだな。もう余所見なんかさせないけど」
「…ほんと、生意気」
もうすぐ私はここに来れなくなる。だからこそ、ここからまた始めたい。藤真と、新しい物語を。