第4章 浮かんでくるのは君の顔
慌てて私から離れた斉藤くんは、バッと入り口に視線をやる。私も同じように入り口を振り返ると、そこには真っ直ぐにこちらを見つめる藤真が立っていた。
「藤真…」
別に藤真には私の気持ちなんてとっくにバレているし、なんと思われたって構わない。構わないはずなのに、藤真の真っ直ぐな視線が体中に突き刺さるようで、私は勝手に居た堪れない気持ちになる。
「藤真!お前、怪我は大丈夫なのか!?」
斉藤くんは立ち上がって藤真に駆け寄ると、藤真のこめかみに張り付けてあるガーゼを見ながら問い掛けた。
「…もう大丈夫です。試合、最後まで出られなくてすみませんでした」
「……いや、お前に頼りきって、結局負けた。すまないのはこっちの方だ」
グッと握り拳を作った斉藤くんは下を向いて申し訳なさそうに藤真に謝罪する。藤真はそんな斉藤くんを見つめながら苦笑いを浮かべ、溜め息を吐いた。
「…でもキャプテン、月丘先輩に手出しちゃ駄目ですよ。彼女さん悲しみますから」
「あ、ああ、いや、そんなつもりじゃ…」
「……早く帰って休んでください。………俺が、あなたを殴らないうちに」
「藤真…」
斉藤くんは藤真に言われるがまま自分のカバンを肩に掛けて、出口に向かって歩き始めた。帰り際に「…悪かった」と、斉藤くんが呟く。藤真に向けて言ったのか、私に向けて言ったのか、分からないけれど。
斉藤くんを追い出す形で藤真と二人きりになった体育館は、急にシーンと静まり返った。
「…邪魔されて、ムカついた?」
藤真は床に転がったボールを拾いながら問い掛けてくる。こめかみのガーゼが痛々しくて、私は思わず目を細める。
「別に、そんなこと」
「あのさ」
藤真から視線を逸らしながら言い返すと、途中で言葉を遮られる。
「先輩、まだキャプテンのこと好きなのか?」