第4章 浮かんでくるのは君の顔
直球で来た言葉に、一瞬呼吸を忘れて喉が締まった。藤真の視線は変わらず私に固定されていて、何一つ曇りのない目で私を突き刺してくる。なんて、答えればいいのだろうか。私は斉藤くんのことが好きなはずだ。そのまま藤真に答えればいいだけ。それなのに、一言も口から言葉が出てこない。
「…先輩、一つ聞きたいんだ」
瞬き一つさえ重く感じるこの空間で、藤真の一言一句は鉛のように纏わりついてくる。なぜなんだろう。さっきから藤真がひどく大人っぽく見えて心臓がドクドクとうるさい。
「あと一年、俺が早く生まれてたら、俺のこと好きになった?」
――――――全身の熱が、顔に集まるのをハッキリと感じた。
相変わらず声は出せないまま体を硬直させて、藤真を見つめ続けるしかなかった。藤真はそんな私を見てフッと笑みを浮かべ、「…ごめん」と一言呟いて、出口に向かって歩いていく。
藤真を呼び止めるのが正解なのだろうか。
斉藤くんにキスされそうになった時、藤真が来てくれたことに実はホッとしたこと、なぜか藤真の顔が浮かんだこと、斉藤くんを好きだと即答できないこと、全ての辻褄は噛み合っていて。いま私が出した答えはおそらく正解だ。だけど、言いたくない。
私はきっと、簡単に気持ちが変わる女だ…って、藤真に思われたくないんだ。
それが何を意味するのか、もう分かりきったことだった。