第4章 浮かんでくるのは君の顔
斉藤くんはステージ下に置いてあったカバンからタオルを取り出して、そのままドカッと座り込んだ。タオルで汗を拭きながらハアーっと溜め息を吐く。
「…なんか、ジッとしてらんなくてさ」
ハハ…と力無く笑う斉藤くんを見ているだけで私の涙腺は壊れそうだったけど、斉藤くんは私よりもずっと辛いはずだ。「そうだね」と、一言だけ私は返す。
「……ずっと全国には行けてたのにな。今年は藤真もレギュラーに入ったし、いいとこまで行けるって…………そう、…………思って…………!!」
上擦った声で絞り出すように言葉を紡ぐ斉藤くんは、ついに顔を膝につけて、もう限界なんてとっくに突破してるであろう気持ちを溢れさせながら、涙を流した。
斉藤くんが頑張ってきたこと、知ってるよ。誰よりも見てきたって胸を張って言える。強豪校であるうちの学校では、インターハイに出場できるのは基本三年生のみ。斉藤くんも例外ではなかった。今回がレギュラーとして最初で最後の大会だったのだ。
「……斉藤くん、よく頑張ってきたと思う。最後の大会だったし、思い入れも人一倍あったよね。………よく、頑張っ…………た………よ」
――――もう駄目だった。私もついに限界がきて、込み上げてくる嗚咽を抑えることができない。目尻からも涙が零れてくる。
「……月丘。……ほんと、感謝してるよ。お前がバスケ部にいてくれて、本当に良かったと思ってる」
斉藤くんが顔を上げて、涙を一筋流しながら微笑んでくれる。それに釣られて私も「ありがと」と笑うと、ゴシゴシとジャージの袖で涙を拭いてジッと私を見つめてきた。
「……お前、さ。…前から思ってたけど結構可愛いよな」
「え……」
「………ずっと思ってた。彼女には悪いけど。………なあ、ちょっとだけ、いいか…?」
そう言うと斉藤くんは、目を閉じて、顔をゆっくりと近付けてくる。キス、されるのかな…なんて薄っすらと考えていると、不思議と藤真の顔が浮かんできた。
――――――なんでかな。
大好きな斉藤くんにキスされそうな状況なのに、嬉しいって思える気持ちがない。それでも嫌だなんて思わないから大人しく受け入れようとしていると、体育館のドアが突然ギイッと開く音がした。