第3章 森にて
「……くっ!」
私は片膝を突きながら木刀の柄と背に手を置いて、何とか謙信さんの重い一撃を受け止めた。
「ほう。受け止めたか」
「………凄いな。謙信の刀を受けるとは」
私は下から謙信さんを睨み付けた。
「………………………戯れも大概にせぬか、戯け者」
「……⁉」
年相応の娘とは思えない迫力と発せられた低い声に、佐助と幸の肩がビクリと跳ね、謙信と信玄は動きを止めた。
刹那、向こうから馬が走ってくる音が聞こえてくる。
「謙信様、ここは危険です。多分織田の兵がこっちに来てます。逃げましょう」
「……」
謙信さんは私を一瞥すると、刀を鞘に納めた。
「引き上げるぞ。今すぐにでも織田と殺り合いたいがな」
謙信さんはそう言って、踵を返した。続いて信玄さんと幸村さんも続いていく。
「珠紀さん、ごめんね。落ち着いたら様子を見に行く」
佐助は申し訳なさそうに言うと、姿を消した。
気配が完全に消えると、私は自分の手元を見る。
袱紗は謙信さんの刀によって斬られ、木刀も役に立たない有様になっていた。思わず溜息を吐く。
(何でこんなことに……)
この短時間に何度思ったか分からない問いと落ち着く為に深呼吸を繰り返していると、馬に乗った秀吉さんと眼帯を付けた男性が馬に乗ってやってきた。
「お前か。信長様の元から逃げ出したって奴は」
眼帯を付けた男性が面白そうに私の顔を覗き込む。
(あ〜あ。追いつかれちゃった)
「だったら何だ」
私は苛立ちが収まらないまま、二人を睨み付ける。
「ようやく見つけたぞ。訳の分からない理由で信長様の御前から姿をくらますとは、無礼にも程がある」
(そんなの…私の知ったこっちゃない)
「それは彼奴が勝手にそう言っただけだ。
そもそも、初対面でいきなり『俺の女になれ』などと言われて『はい、そうですか』と言うわけがなかろう。彼奴の命令を聞く道理もない」
すると、眼帯を付けた男が口笛を吹いた。
「お前が宇賀谷珠紀か。かなり肝の据わった女だな。
信長様に食ってかかったって話は本当らしい」
「とにかく、お前を安土城に連れて行く」
「は?」
私は思わず眉を寄せた。