第3章 森にて
幸がげんなりと声をかける。
私はすっかり会話に夢中になっていたことに気付き、慌てて佐助から離れた。
「こんなに綺麗な女の子がそんな有様なのは胸が痛いが、君は物の怪の類かな?
にしては美人だが」
私は思わず頬が熱を持つのを感じながら首を勢いよく横に振った。
「いやいや、そんなわけないでしょ。あなた、物の怪の定義分かってます?」
「おや。じゃあ懇切丁寧に教えてくれるかい?」
そう言いながら大人の雰囲気を醸し出す男性は腰に腕を回して引き寄せてくる。
「ちょ…っ」
(ち、近い…っ!)
受けた行為よりも、男性が躊躇いもなく行ったその手慣れさに驚く。
「わーっ!何やってんだ!」
幸が顔を赤くしながら私を男性を引き剥がしてくれる。
「毎度毎度、いい加減にして下さいよ、信玄様!」
(え、信玄って……)
「よくスラスラと軽薄な口説き文句が出るものだな」
背後から声が聞こえ、振り向くと、薄金色の髪でオッドアイの、顔立ちの整った男性が立っていた。
「酷いなー謙信、ただの本音さ。こんなに可愛い子が一人でいるのに放っておけないだろう?」
「…………」
謙信と呼ばれた人は、冷たい目でこちらを見る。だが次の瞬間、目の前に白刃が迫った――。
(え………)
考える間も無く、私は袱紗に入っている木刀で刀を流しながら横に避ける。
「……ほう、避けたか」
「なっ…!」
幸村や信玄さんは、いきなりとはいえ、謙信さんの刀を避けた私の身のこなしに目を見開いている。
「ちょ……いきなり何するんですか!危ないでしょ!」
しかし、そんな私の文句を無視して口角を上げた謙信さんが斬りかかってくる。
「もう、笑いながら刀を振り回さないでいただけます⁉」
抗議しつつ、私は謙信さんの斬撃を全て避け続ける。
「おい、佐助。止めなくて良いのか?」
「多分大丈夫。謙信様は本気じゃないし、あのスピードじゃ珠紀さんには当てられないと思うよ」
佐助の言葉に謙信がピクッと反応し、纏う空気が変わった。
「…っ⁉やめろ、謙信!」
信玄が謙信の空気の変化にいち早く気付き、顔色を変えて叫ぶ。
(っ、急に速くなった⁉間に合わない…!)
森に金属音と木音が響き渡った。