第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
〜秀吉Side〜
信長様に謀反を起こそうとした大名が珠紀を人質にし、珠紀の顔が恐怖に染まったのを見て、カッと腸が煮えくり返るような怒りが湧いた。
自分でも何でそんな感情が浮かんだのかは分からない。
助けようと奮闘しているうちに、珠紀は自力で脱出し加勢してくれた。
広間で詰問した時も思ったが、こんな女には出会ったことがない。
武士達に囲まれ、珠紀と何度も背中合わせになる。
「秀吉さん、大丈夫ですか?」
(さっきまで震えてたってのに、まったくこいつは……)
「それはこっちの台詞だ。怪我はないか?」
「大丈夫です。とりあえず、こいつらを片付けるのが先のようですね」
「だな。お前は――」
「自分の身は守れますので、御心配なく。秀吉さんも目の前の敵に集中して下さい」
俺の背中に隠れてろ、そう続けようとした言葉は年頃の娘らしからぬ台詞によって遮られる。
呆気に取られると同時に、三成ではないが逞しい存在が背中にいることに安堵も覚えて俺は困惑した。
だが、背中から武士達が次々と倒れていく気配を感じて、無意識のうちに口角が上がる。
やがて騒ぎを聞きつけたらしい三成達が合流し、大名達は次々と捕らえられていく。
(何とか終わったか……)
息をついて珠紀を労おうと振り返った俺は目を見開いた。気絶していた筈の大名がいつの間にか立ち上がり、傍にいる珠紀に向かって刀を向けようとしていたからだ。
それを見た途端、斬り合いの最中では起こらなかったというほど、心臓が大きく脈打つ。
俺は弾かれたように必死で地面を蹴った。大名に気付いた珠紀の顔に驚きと悔しさと恐怖が浮かぶ。
(頼む、間に合ってくれ……!)
「珠紀っ!」
無我夢中で足を動かし、珠紀と刀の間に身体を滑り込ませた俺は、覚悟を決めて目をつぶり、腕を顔の前に交差させた珠紀の身体を腕に抱きしめる。
「…ぐ……」
左肩に走る痛みと熱を頭の片隅で感じながら、流れるように空いている右手で拳を作り、大名の顔にぶち込む。
大名は情けない声を上げて、仰向けに倒れた。完全に気絶したことを確かめ、背中に守った存在を確かめる。
「珠紀、無事かっ…!」
「ひで、よし…さん……?」
呆然と名前を呼んだ珠紀は、俺と大名を交互に見て状況を理解しようとしているようだ。