第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
「珠紀、無事――」
「話は後です!」
私は秀吉さんの言葉を遮り、道を開きながら秀吉さんの手を引いて庭を目指す。
開けた場所に出て武士達に囲まれたのを確認しつつ、秀吉さんと背中合わせになる。
相手の動きを気にかけながら、秀吉さんに問いかけた。
「秀吉さん、大丈夫ですか?」
「それはこっちの台詞だ。怪我はないか?」
「大丈夫です。とりあえず、こいつらを片付けるのが先のようですね」
「だな。お前は――」
「自分の身は守れますので、御心配なく。秀吉さんも目の前の敵に集中して下さい」
そう答えた直後、多方面から武士達が刀を振りかざしてくる。
私は素早く真言を唱え、木刀に風の刃を纏わせた。斬撃を流しながら峰打ちや手刀をお見舞いする。
騒ぎを聞きつけたのか、三成君を始めとして御殿にいた家臣達がやって来て、大名達は次々倒れていった。
(何とか終わった……)
ホッと息をついたその時、視界の端で影が動いた。
それとなく振り返った私は固まった。気絶していた筈の大名がいつの間にか私の傍まで近付き、陽の光に光る刀をを振り下ろそうとしていた。
(間に合わない……!)
大名に飛び掛ろうにも、避けて下がろうにもあまりにも双方の距離が近過ぎた。
「珠紀っ!」
遠くで秀吉さん声が聞こえる。
覚悟を決めて目をつぶり、腕を顔の前に交差させた次の瞬間、力強い腕に抱きしめられる。
(………え?)
「…ぐ……」
「がっ…!」
堪えるような小さな呻き声が聞こえたかと思うと、大名の呻き声が耳に届く。おそるおそる目を開けてみると、目の前には広い背中があった。
「珠紀、無事かっ…!」
「ひで、よし…さん……?」
呆然と名前を呼び視線を落とせば、頬が腫れた大名が無様に仰向けに倒れていた。
数秒かかって秀吉さんが自分を庇ったうえに大名を殴ったのだと理解する。
「怪我は?」
「大、丈夫です…」
「……そうか」
私の答えに秀吉さんは息をつき、顔をしかめて左肩を押さえた。私は息を飲んで秀吉さんを支える。