第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
「おぅおぅ、こんなに震えて。可哀想になぁ」
「やめろ!」
人壁の向こうから秀吉さんの焦った声が聞こえる。
「なら改めてあなたの答えを聞きましょう」
余裕めいた表情を浮かべながら、大名は秀吉さんを見る。だが秀吉さんは口を閉ざしたまま動かない。
「……では、仕方ありませんね。あなたにはここで消えてもらいましょう。やれ」
冷たい声がかかり、武士達が秀吉さんに襲い掛かった。
秀吉さんは刀を抜かず、狭い部屋の中で思うように武器を振るえない武士達に次々と拳を見舞っていく。だが、明らかに多勢に無勢で、秀吉さんの顔や腕にどんどん掠り傷が増えていく。
「秀吉さん……っ!」
(どうしよう……このままじゃ、私せいで秀吉さんが……っ)
頭をよぎるのは悪い展開ばかり。私は震える身体をそのままに、必死に考えを巡らせた。
(この大名は、自分が負けるなんて考えてもいないし、私を人質としてしか見てない……)
少し冷静になれば、活路が見えた。私は落ち着くように努力しつつ、大名に話しかける。
「手を、離してくれませんか」
「なに?」
大名は怪訝な顔をして私を見る。
「私ではあなたが考えているような人質にはなれませんよ。私はただの居候の身で、寵姫なんてのは根も葉もない噂に過ぎません」
「言葉巧みに惑わし、逃れようというのか」
「事実を述べているだけです」
(そもそも私、妖怪退治して風邪で寝込んで、雑用してただけだよね……?
逆に何で寵姫なんて噂が出てるのか分からない。うん、謎だ…
しかもこの時代の姫ってお飾りというか、政の道具みたいな要素強いんじゃなかったっけ……)
考え込んでいると、顎を持ち上げられた。
「お前は連れ帰る。伽の相手として可愛がってやろう」
「結構です」
即効で断ると、大名の顔が歪んだ。
「私に楯突く気か」
「私の身体は安いものじゃないですから。女に飢えているのであれば、花魅でも呼んで相手を頼んだら如何ですか」
「このっ、言わせておけば…!」
力が入り首を絞めてきた腕を掴みながら、私は体勢を低くした。つられて少し屈む格好になった大名の鳩尾に肘打ちを叩き込む。
「ぐっ!」
緩んだ腕を引き剥がし、大名の身体を床に叩き付ける。
私は腰に差した木刀を引き抜きながら、秀吉さんの背後に襲いかかろうとしていた武士を気絶させる。