第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
「あなたは、信長様のことを……どう見る」
(あ…っ)
その言葉に光秀さんから聞いた情報が脳裏によみがえり、私は気付かれないようにゴクリと息を飲んだ。
「どう、とは」
「……」
大名はその質問には答えず、じっと秀吉さんを見つめ返す。
「……そうですね。簡潔に言えば、信長様は私の全てです。
私は、信長様にこの身を捧げました。あの方の大望は俺の悲願でもあります。それを叶える為に戦場で散るなら本望」
(……っ)
秀吉さんの迷いのない真っ直ぐな言葉が、それが本心なのだと伝えてくる。
乱世の……戦国武将の生き様をはっきりと突き付けられて、やはり生きている時代が違うのだと思い知らされた。
「…………そうか。ならば――」
(あ……っ!)
秀吉さんの迫力に呑まれて反応が遅れた。
一段と低い声が聞こえたかと思うと、大名の太い腕が私の首に回され、首に短刀を突き付けられる。
「……っ」
「珠紀!」
秀吉さんが刀に手を伸ばしたその時、四方の襖を開け放って刀を構えた武士達が部屋の中に雪崩れ込んできた。
秀吉さんは素早く周囲の状況を確認すると、警戒したまま大名に鋭い視線を投じる。
「……風の噂は、真であったということですかな」
普段の温厚な雰囲気からは想像もつかない秀吉さんの空気に私は息を飲んだ。
(普段と全然違う……
これが…戦国武将の……豊臣秀吉の、本当の姿なの……?)
「それはあなたの想像に任せましょう……秀吉殿。ここからは取引です」
「何…」
「この娘は織田家ゆかりの姫で信長様の寵姫だと、部下から聞きましてな」
(え……)
初めて耳にする情報に目を瞬かせる。
「この姫の命が惜しくば、私と手を組んで下さい」
その言葉に秀吉さんの顔が一気に険しくなる。
「お前と手を組むなど…っ」
「ならば姫の命は見捨てると?ククク…第六天魔王の右腕らしい、冷酷な判断だ。この姫も哀れですな」
猫撫で声でうっとりと言いながら、大名の顔が頬に近付くのが気配で分かる。そして不意に、濡れた感触がした。それが大名に頬を舐められたのだと理解するのに数秒かかった。
「ひぃ…っ」
異性からの初めての感触に意図せず目頭が熱くなり、逃れようと身を捩る。だが、大名は難なく私の身体を抱きとめる。