第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
それから数日後。
秀吉さんの御殿に寝泊まりしながら女中の手伝いをしていた私は、秀吉さんに呼ばれた。
部屋に向かうと、秀吉さんは文机に紙を広げ、素早く筆を走らせている。そして何故か光秀さんもいて私は目を瞬かせる。
(どうして光秀さんが…)
「何故俺がここにいるのかと言いたげだな」
「……何か考えがあってのことでしょうから何も言わないでおきます」
「賢明な判断だな」
「それで光秀。珠紀を呼んでまでの話って何だ?」
「少々きな臭い話が耳に入ってな」
「きな臭い話?」
「ああ」
何でも信長さんと対立関係にあり、最近傘下に入った近くの大名が挨拶に来るらしい。
その大名は信長さんの傘下に入ったのが癪なのか、鬱憤晴らしするかのように民から米を奪い取ったり、女遊びや賭け事にお金を使ったりと贅沢三昧しているというのが光秀さんの部下から得た情報だった。
(うわぁ。最低……)
「信長様がその話聞いたら『俺の配下にそんな奴は要らん』とか言いそう…」
「奇遇だな。俺もそう思う」
秀吉さんが眉間に皺を寄せながら頷く。
「案外お前達は似た者同士かもな」
光秀さんがニヤリと口角を上げながら私と秀吉さんの顔を見比べる。
(いやいやっ、名だたる豊臣秀吉さんと似た者同士なんて……)
「恐れ多いですっ」
私は大きく首を振った。すぐさま秀吉さんが庇ってくれる。
「こら光秀。珠紀を揶揄うな」
「俺は思ったことを言っただけだ」
「それで、何でそいつは俺に拶に来ようとするんだ?」
(確かに……普通なら、謀反の為に武器を集めようとしたりするよね)
チラッと伺うと、目が合った光秀さんが顔を寄せてきた。
「珠紀、お前はどう思う?」
(何で私に振って来るの……っ?)
非難するような視線を光秀さんに送るが、光秀さんはそれを不敵な笑みで受け流し、私の答えを待つ。
空気に耐え切れなくなった私は、渋々思ったことを口にしてみる。
「一つ聞きますけど、その大名はキレる人なんですか?」
「それほどではないな。感情の起伏が激しいとだけ言っておこう」
(要するに子供なのね)
私は顎に手を当てて考え込み、思う可能性を述べていく。
「多分ですけど、その大名は近いうちに謀反を起こす気なんだと思います」
二人の顔から笑みが消えた。
「何故そう思う」